ノクトゥア

大学生のための「思考の種」

『一人っ子の国』に生まれて

ゴールデン・グローブ賞ミシェル・ウィリアムズが女性の中絶権を訴えるスピーチを行った。

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 2019年5月、アメリカのアラバマ州で妊娠を禁止する法律が成立した。同様の法律はミシシッピやケンタッキーなど徐々に広まりつつある。

自分の身体に対する選択を保障することは、基本的人権の最もベーシックな考えだと思う。中絶を禁止するのとは逆に、女性に中絶、堕胎、不妊治療を強制する政策が、中国の「一人っ子政策」だ。その国境や時代を超える影響を描いたのが、『一人っ子の国』である。

 

 監督ナンフー・ワンが民生用のカメラを片手に故郷を訪ね「一人っ子政策」に関わった人々にインタビューするドキュメンタリー。ワン監督の母親や地元の村役人をはじめ、当時人身売買に加担した人々や中国人孤児の出生を探るアメリカ人夫婦など様々なひとと出会う。やがて明かされるのは、「一人っ子政策」当時の人々の、得体の知れない無力感と、中国社会を規定する歪んだジェンダー観だった。

母体と胎児に関わる生命倫理を問う本作をぜひ観てほしい。

 

GG受賞スピーチで政治に言及すること

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第77回ゴールデン・グローブ賞の授賞式で、司会のリッキー・ジャーヴェイスは「このステージを政治的スピーチのプラットフォームにしないでね」と参加者を揶揄した。

アップルが中国で労働者を低賃金かつ劣悪な環境で働かせる搾取工場=スウェットショップを経営していることを例に、俳優たちが仕事をしてきたアップル、アマゾン、ディズニーは、倫理的、政治的に問題視されるべきビジネスをやっている、というのだ。「あなたたち(俳優)はイスラム国がストリーミング配信を始めてもエージェントに電話するんでしょ?」と続ける。

ジェーヴェイスは、カトリック教会で横行する少年への性的虐待や観客の映画館離れ、アクション・ファンタジー作品市場の大規模化、人種差別的なハリウッド外国人記者協会、映画『キャッツ』の不評などを話題とする鋭いブラックジョークでセレブたちを揶揄した。

受賞者たちはこれに屈せず、壇上で政治的な意見を表明する。妊娠を発表したミシェル・ウィリアムズは、「全ての女性に中絶する権利がある」と訴えた。ホアキン・フェニックスは気候危機に対する自分たちの責任を果たすべきだといい、ラッセル・クロウやエレン・デジェネレス、ピアース・ブロスナンらはオーストラリアの山火事に触れた。

さらに政治的にコレクトな出来事といえば、オークワフィナがアジア系俳優としてはじめて主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞したことだろう。過去2年間で俳優が全員黒人の映画『ムーンライト』がアカデミー賞作品賞を受賞し、全員アジア系俳優映画『クレイジー・リッチ!』が高評価を得た。アフリカを舞台とした『ブラックパンサー』が公開当時アメコミ映画としては史上最大のヒットを記録し、ディズニー映画『ムーラン』や初のアジア系MCU映画『シャン・チー&ザ・レジェンド・オブ・ザ・テン・リングス』の公開も控えている。ハリウッドは人種的多様性の確保へ向けて、進歩したと言えるだろう。

昨年話題となった『FACTFULNESS』でハンス・ロスリングは、「悪い」と「良くなっている」は並立すると語った。悪い面ばかりを強調して世界をドラマチックに見てしまう人間の本能は、時に事実を誤って認識させ、正しい判断をできなくしてしまう。セレブのスノッブなスピーチに釘をさすジャーヴェイスの発言は一定の意味を持つだろうが、それでも世界を前進させようとコレクトな意見を述べたセレブたちには、称賛の拍手を送りたい。

「生きたままカエルを食べる」先延ばしをやめる習慣

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オランダのメディア「デ・コレスポンデント」が、先延ばしをやめるために、今日からできる習慣を紹介している。

thecorrespondent.com

人が物事を先延ばしにしてしまうのは、自分に自信がないからだ。だが「完璧な準備」を期している間に時間はどんどん過ぎていく。嫌な気分になることを恐れず、初めてしまったほうが物事は上手くいく。

まずは「1日のTODOリストは3つまでにする」。その日を満足して終えられるようにタスクを組む。リストには必ず動詞を入れて具体的かつ現実的にする。

そして「生きたままカエルを食べる」。このカエルは「最も重要なタスク」であり、これに早く取り掛かるということだ。一日の中で最もエネルギーに溢れた朝に、ストレスフルな課題をこなすことで、その日を気持ちよく過ごせるという。

先延ばしはなるべくやめたほうがいい。遠くに小さく見える木が、近づくとだんだん大きく見えるように、先に延ばしたタスクは、期限が近づくと想像以上に困難で苦労することもある。

記事の最後には、キッチンタイマーを活用した「時間管理術」も紹介されている。仕事と休憩の理想的なバランスは何か。ぜひ読んでほしい。

courrier.jp

『ザ・レポート』日常と化したCIAの拷問と虐待を暴くクライム・サスペンス

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アダム・ドライバー主演『ザ・レポート』がAmazon Prime Videoで配信された。2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ事件以降、CIAがテロ対策のため、「強化尋問」と称した非人道的で残酷な拷問、虐待の実態を上院職員が暴こうと奮闘するクライム・サスペンス。監督は『不都合な真実』を製作し、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の脚本も担当したスコット・Z・バーンズ。製作にはスティーブン・ソダーバーグが名を連ねている。

情報を得たいCIAが容疑者に行っていた「強化尋問」は、激しい肉体的・精神的苦痛や、時に死をもたらすだけでなく、その手法に科学的な裏付けはなく、明確な効果も上げられていなかった。容疑者を壁に打ち付け、水攻めにし、ストレスのかかる体勢に縛り上げ、虫と一緒に小さな箱に閉じ込めたり、強い光と大音量の音楽で長時間寝かせなかったり、気温の低い部屋で水をかけ放置したりする。拷問シーンには思わず目をそむけたくなる。『ボーダーライン』や、劇中にも登場する『ゼロ・ダーク・サーティー』を嬉々としてみていた自分が身につまされる。

批評家の評価も上々。ロッテン・トマトによる批評家の見解の要約では、「『ザ・レポート』はアメリカ史の暗黒面の一つを明るみに出し、ある公務員が忠実に義務を果たそうとする姿を一切の誇張を抜きに描き出した。同作は観客の心を掴む作品に仕上がっている。」となっている。動画ストリーミング配信事業のオリジナル映画製作といえばNetflixが一人勝ちしている状況だが、このamazon製作映画もクオリティでは遜色のない立派な良作に仕上がっている。


アダム・ドライバー主演『ザ・レポート』 | Amazon Prime Video

 

クルマ所有の現実

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米国のカーシェアリング・サービスは伸び悩んでいる。業界最大手Uberは赤字続き。Car2Goは事業展開中の北米都市の半数から撤退、BMWの子会社ReachNowは米国での営業を終了し、GMが運営するMavenも事業を縮小した。

Uberは自動運転技術は黒字化に欠かせないとして開発を急いでいる。都市部ではドライバーの確保が困難を極めており、自動運転技術こそがゲームチェンジャーになると予想されている。

wired.jp

日本では、トヨタが高速道路での合流や追い越しができる自動運転レクサスを今秋に発売する。自動運転技術はレベル1~5に分けられる。自動運転レクサスはレベル2だ。限定条件のない完全自動運転のレベル5までの道のりは長い。

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さらにWIREDの記事によれば、米国での自動車保有台数が伸びているという。景気の回復とガソリンの値下がりによって車は以前ほど贅沢品ではなくなった。加えてこれまで車を持たないとされてきたミレニアル世代が結婚し子供を持つ年代に入ってきたことも大きい。「米国内のどんなに交通網の発達した都市に住んでいても、子育て期にクルマをもっていなければ最大級の苦労を強いられることになる」。クルマ所有の終焉を思い描いていた人々にとっては苦い現実だ。

wired.jp

自動運転が確立するまでの辛抱、といえるだろうか。2020年はどんな新技術が現れ進歩するのか、注目したい。

 

アダム・ドライバーの夜明け

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スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)で新世代の悪役カイロ・レンを演じ、世界的なスターとなった俳優アダム・ドライバー。片田舎の青年が海軍、大学院、テレビドラマ、映画と活躍の場を変えていった様子を本人が回想する。

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ビッグ・バジェット映画で活躍するだけなく、マーティン・スコセッシノア・バームバックジム・ジャームッシュテリー・ギリアムスティーブン・ソダーバーグら世界の巨匠に愛される演者に育った。自分が出演する作品は観ない主義を通す。

2019年12月には、3本の出演作が公開された。そのどれもで「アダム・ドライバーの演技力が無いと映画が成り立たない」と言われる。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』ではパルパティーンの復活に激怒する悪の指導者カイロ・レン、『マリッジ・ストーリー』では離婚協議で息子に自分が戦ったことを知ってほしい夫チャーリー、『ザ・レポート』ではCIAが行ってきた拷問を暴こうとする調査員ダニエル。ホルモン過多な青臭い顔つきから、世界が目を離さない。進化、というよりはもともと持っていたポテンシャルに作品毎に観客が気づき、驚嘆する。現在進行形のスター、アダム・ドライバーの飛躍を祝う。

 

「酒を飲まないこと」ムーブメント

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よく寝て、お酒もたばこも飲まない。シンプルで禁欲的な健康法がトレンドだ。

日本人の喫煙率は、平成の30年間で、男性61.1%から27.8%、女性12.7%から8.7%と減少した。禁煙・分煙化が進み、映画やテレビ番組などでの喫煙描写はその必要性が厳しく問われる。たばこ税が増税されたばこが高級品になった。喫煙の健康リスクが周知され、「吸わない」姿勢がクールだという社会的なトレンドが生まれた。

日本人の飲酒習慣はどうだろう。平成の30年間で酒類の販売量は「微減」。だが20代から30代で週3回以上飲酒する習慣のある人の割合は大きく増加している。特に若い女性が以前より飲酒するようになっている。

飲酒にも大きな健康リスクがある。肝臓病、心臓病、コレステロール値の増加、中毒や自殺・うつ。WHOの評価ではアルコールは癌の原因になるとされている。それにアルコールは飲む人の体質を問う。飲みの席で「飲まない」ことで後ろめたさや疎外感を感じる人もいる。「飲む人」の輪は排他的で、ダサい。お酒を場の潤滑剤とした「飲みにケーション」では、ついつい本音や乱暴な言葉が飛び出したりして、生産的な議論は期待できないし、結局翌朝には話の内容を忘れていたりする。シラフでいる方がよっぽどましではないか

海外では、飲酒を問題視する人々が声を上げる。「#soberissexy」で検索すると、アルコールなしでも人生を謳歌できる、という投稿が並ぶ。「飲まないこと」は健康法のひとつであり、わたしのライフスタイルを規定する、アイデンティティなのだ。

時事芸人のプチ鹿島は、「寝ない自慢はもう古い。これからは「寝れる自慢」だ」と言った。忙しくて4時間しか寝れてない、などとわざわざ口に出すのはどこかそれにかっこいい響きがあったからだろう。しかしこれからは、寝る、睡眠をしっかりとる、こともひとつのアイデンティティになってくる。忙しい日常で時間を作って睡眠をしっかりとれる人は、時間管理能力に長けているし、起きているときのパフォーマンスも高いはずで、それは確かにかっこいいだろう。

 

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The New York Timesが、アメリカで起こる「飲まないこと」ムーブメントを記事にしている。

記事に登場するのは、43歳の記者、32歳の元ブランドコンサルタント、34歳のアーユルヴェーダ(インドの伝統医学)学者など、現役の社会人、ビジネスマンたちだ。20歳になったばかりのZ世代は、まだお酒への興味が強く、飲むことへのあこがれを持ち続けているだろう。ただしお酒に弱くそれで飲みの場を楽しめない人には、この「飲まないこと」ムーブメントを知ってほしい。もちろん、飲むことを楽しんでいる学生にも、自身の健康問題として考えてほしい。