ノクトゥア

大学生のための「思考の種」

電子書籍

『冬時間のパリ』

洗練され、ウィットに富んだ107分の会話劇で冬のパリを舞台に大人の恋愛を描く、オリヴィエ・アサイヤス監督作。ジュリエット・ヴィノシュ、ギョーム・カネ主演。


二組の夫婦の不倫模様を縦糸に、電子化に揺れる出版業界を横糸に映画は紡がれる。彼らの不倫物語が、これと言って面白いわけではない。そしてより大きな問題は、横糸にある。


敏腕編集者の中年男性アラン、彼の妻でテレビ女優のセレナ、セレナの不倫相手の作家レオナールとアランの不倫相手で若手編集者ロール。この4人が電子書籍と紙の書籍を対比してそれぞれのメリットや電子書籍の有利な点を語ったりする。「電子化すれば装丁や販売経路の確保などの業務が省ける」「アメリカでは実はハードカバーの書籍が売れている」など電子書籍あるあるをしゃべるのだが、議論が10年遅れていはしないだろうか。これだけ普及した電子書籍について、なんら先見性のある発言が出てこないのである。何か古いSFを観ているような気になった。10年前にこの映画が作られていたらそれは重要な作品になっただろう。


彼らの不倫もお咎め無しで、ぼんやりと呑気な着地に終わる。2時間観た割には、残るものがゼロに等しい映画だった。Bunkamuraル・シネマで上映中。