ノクトゥア

大学生のための「思考の種」

GG受賞スピーチで政治に言及すること

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第77回ゴールデン・グローブ賞の授賞式で、司会のリッキー・ジャーヴェイスは「このステージを政治的スピーチのプラットフォームにしないでね」と参加者を揶揄した。

アップルが中国で労働者を低賃金かつ劣悪な環境で働かせる搾取工場=スウェットショップを経営していることを例に、俳優たちが仕事をしてきたアップル、アマゾン、ディズニーは、倫理的、政治的に問題視されるべきビジネスをやっている、というのだ。「あなたたち(俳優)はイスラム国がストリーミング配信を始めてもエージェントに電話するんでしょ?」と続ける。

ジェーヴェイスは、カトリック教会で横行する少年への性的虐待や観客の映画館離れ、アクション・ファンタジー作品市場の大規模化、人種差別的なハリウッド外国人記者協会、映画『キャッツ』の不評などを話題とする鋭いブラックジョークでセレブたちを揶揄した。

受賞者たちはこれに屈せず、壇上で政治的な意見を表明する。妊娠を発表したミシェル・ウィリアムズは、「全ての女性に中絶する権利がある」と訴えた。ホアキン・フェニックスは気候危機に対する自分たちの責任を果たすべきだといい、ラッセル・クロウやエレン・デジェネレス、ピアース・ブロスナンらはオーストラリアの山火事に触れた。

さらに政治的にコレクトな出来事といえば、オークワフィナがアジア系俳優としてはじめて主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞したことだろう。過去2年間で俳優が全員黒人の映画『ムーンライト』がアカデミー賞作品賞を受賞し、全員アジア系俳優映画『クレイジー・リッチ!』が高評価を得た。アフリカを舞台とした『ブラックパンサー』が公開当時アメコミ映画としては史上最大のヒットを記録し、ディズニー映画『ムーラン』や初のアジア系MCU映画『シャン・チー&ザ・レジェンド・オブ・ザ・テン・リングス』の公開も控えている。ハリウッドは人種的多様性の確保へ向けて、進歩したと言えるだろう。

昨年話題となった『FACTFULNESS』でハンス・ロスリングは、「悪い」と「良くなっている」は並立すると語った。悪い面ばかりを強調して世界をドラマチックに見てしまう人間の本能は、時に事実を誤って認識させ、正しい判断をできなくしてしまう。セレブのスノッブなスピーチに釘をさすジャーヴェイスの発言は一定の意味を持つだろうが、それでも世界を前進させようとコレクトな意見を述べたセレブたちには、称賛の拍手を送りたい。